統合失調症とは

公開日:2024年3月25日

統合失調症とは

統合失調症は、考えや気持ちがまとまらなくなる状態が続く精神疾患です。統合失調症は100人に1人がかかるとされ、誰しもがかかる可能性があり、特に思春期を含む若年で起こりやすいといわれています。その原因は十分に解明されていませんが、脳のさまざまな機能が複雑に絡んでいます。主な症状として、陽性症状、陰性症状、認知機能障害、不安・抑うつなどが起こります。再発しやすい病気ですが、しっかりと治療すれば回復するため、あきらめずに治療を継続することが大切です。
統合失調症の治療薬は今でも新しいものが生まれており、体の病気と同じように、早期発見と早期治療がとても重要です。

監修:北里大学医学部 精神科学 主任教授 稲田 健 先生

統合失調症の発症要因

統合失調症の根本的な原因はまだ解明されていませんが、1つの原因ではなく、遺伝と環境を中心としたいくつもの要因が重なって発症につながると考えられています。

遺伝的な要因

家系的な要因はあるようですが、遺伝だけで決まるものではないことも明らかになっています。

環境的な要因

心理的、社会的、身体的ストレスなどは発症の要因となるようです。

環境的要因

さまざまな要因が重なることによって、脳内で情報をやり取りするために必要な「神経伝達物質」がうまく働かなくなったり、脳内での「つながり」がうまくできなくなると、発症にいたると考えられています。

統合失調症の症状

統合失調症の主な症状

陽性症状

陽性症状
  • 幻覚
    ほかの人には聞こえない音や声が聞こえたり、見えないものが見えたりする
  • 妄想
    本当でないことを信じてしまう など

陰性症状

陰性症状
  • 意欲の低下
    やる気がなくなる
    外出しなくなる
  • 感情の鈍化
    身だしなみを気にしなくなる など

認知機能障害

認知機能障害
  • 記憶の障害
    新しい情報を習得するのに時間がかかる
  • 注意力の低下
    日常会話に集中できない
    自分の考えをまとめられない など

不安・抑うつ

不安・抑うつ
  • 気分の落ち込み
    何をしても気分が晴れない
  • 不眠
    寝ようとしても眠れない
    朝早く目が覚める など

ドパミン仮説とは?

統合失調症の主たる症状である陽性症状は、脳の中のドパミンという物質が多くなり過ぎることが原因と考えられています。これをドパミン仮説といいます。ドパミンには脳の中で情報を伝える役割があります。

バランスが崩れた状態

バランスが崩れた状態

ドパミンの量が普通よりも多くなり、
過剰な信号が出ている

バランスがとれた状態

バランスが崩れた状態

ドパミンの量が正常で、
正しく信号が出ている

統合失調症の症状の経過

統合失調症になっても適切な治療を受けることで、少しずつ回復していきます。
統合失調症は、病気の経過により大きく4つの病期に分けることができます。

統合失調症の症状の経過(概念図)
と治療

統合失調症の症状の経過(概念図)と治療

急性期

発症してから1ヵ月~数ヵ月くらいの期間で、症状としては妄想や幻覚など陽性症状が活発にあらわれる時期です。多くの場合、ここで陽性症状軽減を目的とした治療が始まりますが、休息をとることも大事な時期で、一時的に入院することもあります。

消耗期(休息期)

急性期の後には、体がだるい、やる気が出ないなどの陰性症状が中心の消耗期(休息期)に入ります。この時期は不安定な精神状態にあり、急性期に逆戻りしやすい時期でもあるため、焦らず無理をせず規則正しい生活を心がけましょう。

回復期

急性期や消耗期(休息期)が過ぎると、症状も徐々におさまり、回復期に入ります。少しずつ安定感を取り戻していく時期です。一般的には数ヵ月~数年単位で経過します。再発に注意しながら、前向きにリハビリを行っていきましょう。

監修:北里大学医学部 精神科学 主任教授 稲田 健 先生

専門医が答える
統合失調症 Q&A

統合失調症は、治療すれば良くなるのでしょうか?

統合失調症にはさまざまな経過があります。幻視や幻聴などの症状が辛い時期もあるかもしれませんが、治療によって改善が期待できます。また、症状や対処法を理解することは、日常生活を取り戻すことにもつながります。

嶋田聡志

統合失調症の治療

統合失調症の治療法

統合失調症治療の基本は、「薬物療法」、「休養・環境調整」、「心理社会療法」を行うことです。いずれの治療も、ストレスへの対応力を高め、当事者自身の回復する力を高めることにつながります。

統合失調症の治療法

専門医が答える
統合失調症 Q&A

心理社会療法とは、どんな治療をするのですか?

精神科におけるさまざまなリハビリテーションを行います。病気や治療について学ぶ心理教育や、趣味活動や就労に近い作業を実際に行う作業療法、日常生活で必要なことをグループの中で実践する生活技能訓練(SST)などがあります。

嶋田聡志

統合失調症治療の目標

統合失調症の症状を改善し、心理社会療法やリハビリテーションなどを通じて社会機能を回復することが治療目標といえるでしょう。
一人ひとり症状は異なり、違うペースで回復に向かいます。回復しているか不安になることもあるかもしれませんが、たくさんの支援者と困りごとを共有しながら、治療を続けていきましょう。

統合失調症治療の目標と治療ステップ

統合失調症治療の目標と治療ステップ

薬物療法リハビリテーションを組み合わせた
包括的な治療により回復を目指します

稲田健:臨床精神薬理., 16:743, 2013

統合失調症の薬物療法

統合失調症の基本となる治療は抗精神病薬による薬物療法です。
お薬は毎日続けることが大切です。お薬を続けることでゆっくりとできることを増やし、やりたいことができる日常を取り戻しましょう

薬物療法

【ポイント】

  • お薬の用量はあなたの症状や状態に合わせて設定されています。お薬を飲むときは、決められた飲み方と用量を守るようにしましょう。
  • お薬を減らしたりやめたりしたいときには自己判断はせず、主治医の先生に相談しましょう。症状が安定していればお薬を減らせる場合もあります。

抗精神病薬の特徴と種類1)

抗精神病薬が統合失調症の薬物療法の基本です。 抗精神病薬は、脳内の主にドパミンという神経伝達物質を調節し、統合失調症で困っている体験や症状を和らげる働きがあります。
抗精神病薬には、非定型抗精神病薬と定型抗精神病薬の2種類があります。 統合失調症薬物治療ガイドライン 2022では、維持期の治療に非定型抗精神病薬を使用することが望ましいとされています2)

●服用前

服用前
ドパミンの量が普通よりも多くなり、過剰な信号が出ている

ドパミンの量が普通よりも多くなり、
過剰な信号が出ている

●服用後

服用前
抗精神病薬がドパミン受容体に作用し、ドパミンによる信号を調節する

抗精神病薬がドパミン受容体に作用し、
ドパミンによる信号を調節する

非定型抗精神病薬

《主な作用》
脳内のドパミンに加えて、セロトニンという神経伝達物質を調節することにより、陽性症状への効果を持ちながら、従来の定型抗精神病薬よりも錐体外路系の副作用(手の震えなど)が軽減されています。

定型抗精神病薬

《主な作用》
脳内のドパミンを調節することにより、陽性症状(幻覚や妄想など)への効果が期待できます。

1)功刀浩:本人・家族に優しい統合失調症のお話, 初版, 翔泳社, 東京, p.57, 2018

2)日本神経精神薬理学会、日本臨床精神神経薬理学会:統合失調症薬物治療ガイドライン 2022, p.53, 2023
https://www.jsnp-org.jp/csrinfo/img/togo_guideline2022_0817.pdf(閲覧:2023年12月)

抗精神病薬による副作用

抗精神病薬では以下のような副作用があらわれる場合があります。気になることがあった際には、主治医の先生に相談してみましょう。

そわそわして落ち着かない
そわそわして落ち着かない
手が震える
手が震える
口や舌が不規則に動く
口や舌が不規則に動く
目が上を向く
目が上を向く
ろれつが回らない
ろれつが回らない
首が反り返る
首が反り返る
体重増加
体重増加
眠気・ぼーっとする
眠気・ぼーっとする
抗精神病薬によるその他の副作用
  • 立ちくらみ
  • 生理が止まる、乳房が張る
  • 便秘、排便障害

など

お薬によって副作用の特徴が異なります。
お薬のことで何か気になることがあれば、主治医や医療スタッフに相談しましょう。

嶋田聡志

抗精神病薬のカタチ(剤形)

抗精神病薬のカタチ(剤形)には、飲み薬のほかに貼り薬や注射剤があります。症状や服用する方の好み、生活に合わせて剤形を選びます。

飲み薬

錠剤
  • 水とともに服用します
口腔内崩壊錠・舌下錠・内用液
  • 水なしでも服用できます

※舌下錠は、服用後、一定時間は食べたり飲んだりすることはできません

錠剤

貼り薬(テープ剤)

  • 皮膚に貼ります
貼り薬(テープ剤)

注射剤

  • 筋肉内または静脈内に注射します
注射剤

抗精神病薬以外のお薬

抗精神病薬に加え、症状・目的に応じて補助治療薬が併用されることがあります。

抗精神病薬と併用される主な補助治療薬

薬の種類 特徴
抗パーキンソン病薬 体のこわばる症状(パーキンソン症状)を改善します
睡眠薬 眠りに入りやすくなります
抗不安薬 不安やイライラを改善します
抗うつ薬 うつ状態を改善します
気分安定薬 気分の波を安定させます

専門医が答える
統合失調症 Q&A

今、たくさんの薬を飲んでいます。お薬を減らすことはできないのでしょうか?

統合失調症治療薬の基本は抗精神病薬です。飲んでいるお薬のうち抗精神病薬がいくつあるのか確認してみましょう。もし、抗精神病薬以外のお薬が多いようでしたら、一時的に多くなっている可能性もあります。良くなった症状、困っている症状と一緒に主治医に相談してみましょう。

嶋田聡志

統合失調症の非薬物療法

統合失調症の非薬物療法には心理社会療法や休養・環境調整などがあります。

心理社会療法

心理教育

病気や治療について学びながら、困っていることに対処する方法を学びます。当事者を対象としたものと家族を対象としたものがあります。

作業療法

趣味活動から就労に近い作業まで、実際に手や体を動かしながら、好きなことやできることを増やしていきます。作業を通じたやり取りの中で、コミュニケーションの力も身につけます。 

生活技能訓練(SST)

人との関わり方や自分の気持ちの伝え方など、日常生活の中で自分が「できるようになりたい」と思うことをグループの中で実際に練習し、対処する力を高めます。

心理社会療法

休養・環境調整

急性期

ストレスの少ないゆったりとした環境で過ごすようにします。
十分な睡眠と適切な栄養をとるようにします。

回復期

少しずつ運動も取り入れ、休養と活動のバランスをとります。
規則正しい生活リズムを確立します。

統合失調症とのつき合い方

医師とのコミュニケーションを深める

統合失調症の治療は、当事者と医師が連携をとりながら進めていきます。治療方針などを当事者と医師が対等な関係で一緒に決めていくプロセスをSDM(共同意思決定)と呼び、治療を続けていく上で非常に重要です。また、医師とコミュニケーションをとること自体が治療の1つといえるほど大切です。
疑問や心配などは率直に伝えてみるようにしましょう。思うような会話ができないときは、話したいことをあらかじめメモにしておくと伝えやすくなります。
また、医師が聞きたいことを知ることで、要点を押さえたコミュニケーションがしやすくなります。

医師とのコミュニケーションのポイント

病名と治療の
流れを理解する

お薬についての
情報を交換する

生活上の不安や
心配を伝える

医師と相互に
信頼関係を育てる

医師とのコミュニケーションを深める

診療で医師が聞きたいこと

規則正しい生活が
できているか

  • よく眠れているか
  • 食事をとれているか
  • 便秘や下痢をしていないか

ストレスに対処
できているか

  • 困ったことはないか
  • 困ったときにどのように対処しているか

どんな生活を
しているか

  • 家のこと
  • 仕事のこと
  • デイケアなどのリハビリテーションのこと

お薬のこと

  • お薬はちゃんと飲めているか
  • お薬についての心配や困りごとはないか

病気の症状と同じかそれ以上に、
病気の症状以外のことも大切な情報なのです。

嶋田聡志

医師の前で緊張してうまく話せなかったり、話す内容を忘れてしまったりするときは、前もって話したいことをメモにしておくと良いでしょう。そうすることで、医師とコミュニケーションがとりやすくなります。

メモメモの例を見てみる
嶋田聡志

SDM(共同意思決定)という考え方

SDM(共同意思決定)とは、治療方針を当事者あるいは医師だけが決めるのではなく、当事者と医師が対等な関係のもと一緒に決めていくプロセスのことです。
治療について少し考える必要はありますが、自身の納得できる治療方針は治療を続ける上で大切なことです。

SDMの進め方

当事者 医師(専門家)

治療内容の決定に“両者が”参加

治療の目標(ゴール)の共有

矢印
代替テキスト
矢印

ゆっくり考える
持ち帰って考える

矢印

治療内容を決定

当事者
医師(専門家)

治療の中心は、医師ではなく、当事者の皆さんです。
あなたに合った治療内容を一緒に考えていきましょう。

嶋田聡志

再発を予防するために

再発を完全になくすことは難しい病気ですが、できる限り再発を少なくして、できること・やりたいことが続けられるよう次の3つのことに気をつけましょう。

きちんと服薬を継続する
お薬は毎日服用を続けることで効果が安定し、あなたの生活をサポートします。
良くなってきたときに自己判断でお薬をやめてしまうと、困った体験や症状がまた出てきてしまう(再発してしまう)ので、お薬は服用を続けることがとても大切です。

きちんと服薬を継続する

毎日の生活リズムを整える
食事・日常作業・就寝などのスケジュールを決め、できる限り規則正しい生活を送ることを心がけましょう。生活リズムが整うと、精神的にも安定してきます。
また、十分な睡眠をとることには、ストレス刺激を受けた脳を休ませる効果があります。

毎日の生活リズムを整える

ストレスに備える・対処法を知る
ストレスは再発の引き金になるため、ストレスに備える・対処法を知っておくことが大切です。
例えば、引っ越しや職場(学校)が変わるなどの環境の変化は、大きなストレスになります。準備期間を十分にとり、ゆっくり慣れていくようにしましょう。
また、過去にストレスに対して上手に対処できた経験(自分の対処法)をメモしたり、医療スタッフに相談して対処法を学んでおくことも「ストレスへの備え」になります。

ストレスに備える・対処法を知る

専門医が答える
統合失調症 Q&A

どうしてもお薬を飲み忘れてしまいます。何か良い工夫はありますか?

いつも行う習慣の1つにするのはどうでしょうか。例えば食後のお薬は、食べ終わった後に目につきやすいよう食卓に置いておくなど、毎日の生活の中に取り入れてみましょう。

嶋田聡志

再発を防ぐためには、ちょっとしたサイン(兆候)を見逃さないことが大切です。
再発するときによくみられるサインには、次のようなものがあります。

サイン 説明
不眠
  • すぐに寝つけない、途中で目が覚める、眠りが浅い
  • 昼夜逆転の生活になる
食生活の乱れ
  • 食欲不振
  • 不規則な食事時間
  • かたよった食事内容
気分の波が激しい
  • ちょっとしたことでもイライラしたり、怒ったり、涙が出たりする
神経が過敏になる
  • ささいなことを気にしたり、疑い深くなったりする
精神状態が不安定になる
  • 服薬が不規則になる
  • 過去のことを後悔することが増える
  • 急に仕事をやめたくなる
  • 仕事やプライベートで無理なことをしてしまう

白石弘已:患者のための最新医学 統合失調症 正しい理解とケア, 改訂版, 高橋書店, 東京, p.51, 2023より改変

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【監修者】

稲田健先生

北里大学医学部 精神科学 主任教授
稲田 健 先生

北里大学医学部を卒業後、精神科医として20年以上にわたり多くの統合失調症患者さんを診療してきました。また、日本精神神経学会の専門医・指導医、日本臨床精神神経薬理学会の専門医にも認定されています。精神疾患の当事者の皆さまが社会で自分らしく安心して暮らせることを目指して、特に精神科の薬物治療の研究に日々取り組んでいます。