双極性障害とは

公開日:2024年3月25日

双極性障害とは

双極性障害(双極症)は、躁状態または軽躁状態とうつ状態がくり返しあらわれる病気です。人は誰しも良いことやうれしいことがあれば気分が高揚し、反対に失恋したり仕事で失敗したときなどは気分が落ち込むものです。しかし双極性障害では、このような「気分の浮き沈み」をはるかに超えた激しく病的な症状が一定期間にあらわれて、困った問題が次々と起こります。20~30代に発症することが多く、発症頻度はおよそ100人に1人と決してまれな病気ではありません。うつ病の患者さんは女性が多いですが、双極性障害の場合は男女差はほとんどありません。
「障害」という言葉が偏見を持たれてしまうことや患者さん自身が言葉にとらわれてしまうことがあるため、最近では「双極症」とも呼ばれています。

加藤忠史:これだけは知っておきたい双極性障害, 第2版, 翔泳社, 東京, p.11, 2022

双極性障害の症状

双極性障害では、気分が高まる躁状態と気分が落ち込むうつ状態がくり返しあらわれます。 躁状態では、性格が変わったように気分が高揚して、異常なハイテンション状態になります。
一方うつ状態では、心も体もエネルギー切れのような状態となり、ネガティブな気分が永遠に続く気がします。

気分が高まる躁状態と気分が落ち込むうつ状態があらわれます

気分が高まる躁状態と気分が落ち込むうつ状態があらわれます

加藤忠史:これだけは知っておきたい双極性障害, 初版, 翔泳社, 東京, p.10, 2018より作成

専門医からの
ワンポイントレクチャー

躁状態やうつ状態は「性格的なもの」と誤解されがちですが、双極性障害は「性格的なもの」ではありません。治療が必要な「脳の病気」です。

嶋田聡志

  • 躁状態の主な症状

    躁状態では、自分は何でもできると思ったり、ほとんど眠らなくても平気だったり、一晩中しゃべり続けたりします。
    また時には周囲が驚くような高額な買い物を簡単にしてしまったり、口論になって暴言を吐いてしまったりすることもあります。

    躁状態の主な症状

    躁状態の主な症状

    • 自信満々になる
    • 眠らなくても平気
    • おしゃべりになる
    • 行動的になる
    • 考えが次々に浮かぶ
    • 注意力が散漫になる
    • 気が大きくなって
      高額な買い物をしてしまったり
      危険な行動をしたりする
  • うつ状態の主な症状

    うつ状態では、重苦しく沈んだ嫌な気分が1日中続きます。なかなか眠れなかったり、眠れても夜中や明け方に目が覚めたりします。
    これまで興味を持っていたものにも興味がなくなり、絶望感や無力感にさいなまれます。

    うつ状態の主な症状

    うつ状態の主な症状

    • 気分が落ち込む
    • なかなか眠れない
    • 寝てばかりいる
    • やる気が起きない
    • 楽しめない
    • 疲れやすい
    • 何も手につかない
    • 死んでしまいたくなる

混合状態の主な症状

躁とうつが混ざる混合状態とは?

Q.
躁状態とうつ状態は、同時にあらわれることはありますか?
A.
躁状態からうつ状態へ、あるいはうつ状態から躁状態へ変わるときなどにあらわれることがあります。この状態を「混合状態」と呼びます。気分は沈んでいるのに行動は活発など、躁とうつの症状が同時にあらわれます。気分が落ち込んでいるにもかかわらず、そわそわ・イライラして行動が増えるため、最悪の場合、自ら命を絶とうとしてしまうこともあるため注意が必要です。

混合状態の主な症状

基本的には躁状態で、興奮してしゃべり続けているのに、
不安が強く、涙を流したりする
基本的にはうつ状態なのに、頭の中では「あれもしよう、
これもしよう」と色々考えて、じっとしていられない
登場人物

日本うつ病学会 双極症委員会:双極症とつきあうために, p.9, 2024

双極性障害の発症要因

双極性障害はかつては心の病気だと思われていたことがありましたが、ストレスや育った環境が原因で起こる病気ではありません。「性格的なもの」が起因しているものでもありません。国内外で様々な研究が進んだ結果、現在では、双極性障害は体の設計図であるゲノムの要因が大きく関与する脳の病気であることがわかっています。ゲノム要因により細胞内でカルシウム濃度や細胞の興奮性の調節が変調を来し、気分の調節に関わる神経系の機能が変化してしまうことがその原因と推測されています。

ゲノム要因

加藤忠史:もっと知りたい双極性障害, 翔泳社, 東京, p.26, 2020

双極性障害の診断

双極性障害の診断

双極性障害を分類する際、躁状態がある場合は双極Ⅰ型障害、躁状態はなく軽躁状態(より軽度ながら気分が高揚した状態)とうつ状態がある場合は双極Ⅱ型障害に分けられます。
気になる方は、双極性障害セルフチェックで確認できます。

双極性障害の診断

双極性障害における2つのタイプ

  • 双極Ⅰ型障害

    躁状態とうつ状態があらわれるタイプです。
    躁状態では、周りから見ると、いつものあなたとは全く違うことが明らかです。躁状態のときに躁状態を治療しないでいると、仕事や人生を棒に振ってしまうようなリスクもあります。そして、そのような躁状態の後にうつ状態の波が押し寄せてきます。自分や大切な人を守るために、時には入院治療を必要とすることもあります。

    双極Ⅰ型障害

  • 双極Ⅱ型障害

    Ⅰ型の躁状態と比べ程度の軽い軽躁状態とうつ状態があらわれるタイプです。
    軽躁状態がⅠ型の躁状態よりも激しくないから軽い病気だということではありません。軽躁状態そのものは特に治療が必要でなくても、うつ状態の再発をくり返すことにより、社会生活を阻害してしまうからです。そのためⅠ型同様にしっかり治療することが大事です。
    うつ状態の期間はⅠ型より長く、自殺のリスクも高いとされています。

    双極Ⅱ型障害

加藤忠史:これだけは知っておきたい双極性障害, 初版, 翔泳社, 東京, p.10, 2018より作成

専門医からの
ワンポイントレクチャー

はっきりした躁状態か軽躁状態かによって、2つのタイプに分類されます。うつ状態はどちらにもあらわれ、躁状態よりも長く続きます。

嶋田聡志

双極性障害を疑う症状

うつ病がなかなか治らない人は、双極性障害の可能性もあります。病気の経過を家族や周囲の人と振り返り、思い当たることがあれば医師に相談してください。

双極性障害を疑う場合

  • すごくがんばれた時期や眠らなくても平気で元気いっぱいだった時期があった
  • うつ状態の後にいつもより調子が良くなった
  • 20代のはじめまでにうつ病と診断された
  • 血縁者に双極性障害を持っている人がいる
  • 幻聴や妄想が出てきたことがある

思い当たる項目がある人は、うつ病と診断されていても双極性障害に移行する可能性があります。

加藤忠史:これだけは知っておきたい双極性障害, 第2版, 翔泳社, 東京, p.56, 2022

双極性障害セルフチェック

もしかして双極性障害かも?と気になる方は、
簡単な質問に答えてあなたの症状をチェックしてみましょう。

双極性障害セルフチェック
女性

専門医からの
ワンポイントレクチャー

実は躁状態について、自分自身で気がつかないこともあります。
うつ状態と比べて調子が良いと感じてしまうためです。気になる方は、家族や友人、職場の同僚に上記のようなことはないか聞いてみましょう。

嶋田聡志

うつ病と双極性障害の違い

うつ病と見分けが難しい双極性障害

双極性障害は、躁状態で始まることもあればうつ状態で始まることもあり、人によって異なります。そのため、明らかな躁状態で受診した場合は双極性障害という診断がつく一方、うつ状態で受診した場合は多くの場合、うつ病と診断されます。なぜなら、双極性障害はうつ状態と躁状態の両方があらわれる病気であり、躁状態がない以上、現在のうつ状態からうつ病が疑われるからです。
実際、うつ病と診断されていた患者さんの10人に1人か2人は最終的に双極性障害に診断が変わるといわれています。
双極性障害は正しい診断がつくまで時間を要する病気で、正しい診断に行き着くまで、平均して4~10年ほどかかっているといわれています。

  • うつ病から双極性障害へ
    診断が変わった割合1)

    20%

    約20%

    うつ病と診断された患者さんの約20%が、のちに双極性障害へと診断が変更になりました。

  • 最初の診断名及び
    その割合2)

    最初の診断名及びその割合 うつ病/うつ状態

    双極性障害患者さんの最初の診断は、うつ病/うつ状態が65%を占めていました。

1)Hantouche EG, et al.:J Affect Disord., 50:163, 1998より作成
2)Watanabe K, et al.:Neuropsychiatr Dis Treat., 12:2981, 2016より作成

双極性障害の診断が遅れる理由
(双極性障害と診断を受けた当事者のコメント)

  • 1.

    躁状態を
    病気とは思わず、
    医師には話さなかった

    39%

  • 2.

    自身が
    双極性障害について
    知らなかった

    38%

  • 3.

    医師との
    コミュニケーション不足
    だった。

    25%

※回答者457例中の割合。上位3項目を抜粋。
複数回答可とした。

Watanabe K, et al.:Neuropsychiatr Dis Treat., 12:2981, 2016より一部改変

双極性障害の診断が遅れる理由

専門医からの
ワンポイントレクチャー

双極性障害の診断には躁状態を見極めることがとても大切です。
自分自身では気づかないことも多いため、家族や周囲の人からの情報が重要になります。

嶋田聡志

双極性障害でみられる特徴とうつ病との違い

双極性障害にはうつ病と同じように「うつ状態」があり、「うつ状態」でどちらの病気か見分けるのは非常に難しいといわれています。
一方、双極性障害とうつ病では症状の特徴や発症年齢に違いがみられます。
下の図で左側にある項目はうつ病に多くみられ、右側にある項目は双極性障害に多くみられるといわれています。

双極性障害でみられる特徴とうつ病との違い

Mitchell PB, et al.:Bipolar Disord., 10:144, 2008より改変
監修:順天堂大学医学部 精神医学講座 主任教授 加藤 忠史 先生

双極性障害の発症年齢

双極性障害の発症年齢

双極性障害は10代後半〜20代に発症しやすい病気です。

※双極性障害患者を対象とした計10研究の合計1,304例において、双極性障害の発症年代を調査した結果。

Goodwin FK, et al.:Manic Depressive illness, Oxford University Press, p.132, 1990

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うつ状態の苦しさはその期間が長いことも関係します。双極性障害では、躁状態よりもうつ状態の期間のほうが長く続くといわれているからです。
また「うつ状態」が長く続くことから「うつ病」と間違われやすい病気ともいわれています。

嶋田聡志

双極性障害の治療

双極性障害の治療の中心は、薬物療法と心理・社会的療法です。薬物療法では、病気のコントロールに気分安定薬や抗精神病薬を用います。
心理・社会的療法では、病気に対する理解を深め対処法を学びます。また、生活習慣を見直し、睡眠や生活リズムを安定させることも大事です。

薬物療法

気分安定薬や抗精神病薬を用いて治療を行います。
躁状態に用いる薬剤、うつ状態に用いる薬剤などがあり、薬剤によって期待できる働きが異なります。

薬物療法

躁状態・うつ状態での基本的な治療薬の使い方

双極性障害の治療薬には、気分安定薬と抗精神病薬の2 つのタイプがあります。躁状態かうつ状態かで、使用する薬剤が変わります。また、効果が発現する早さや副作用の種類も異なります。

気分安定薬

抗精神病薬

症状に応じて、気分安定薬と抗精神病薬を併用することもありますが、症状が落ち着いたら最小限の薬で治療します。

気分安定薬

いくつかの薬が気分安定薬として使われていますが、それぞれ作用も副作用も異なった 特徴があります。
ご自身が服用している薬の特徴をよく知っておくと良いでしょう。

〈主な作用〉

躁状態とうつ状態の気分の波を小さくし、維持する働きがあります。

〈副作用〉

気分安定薬では、以下のような副作用があらわれることがあります。気になることがあった際には、主治医の先生に相談しましょう。

  • 下痢
  • 食欲不振
  • のどが渇く
  • 多尿
  • 手の震え
  • 吐き気
  • ふらつき
  • 眠気
  • 体重増加

抗精神病薬

抗精神病薬には多くの種類がありますが、薬剤によって期待できる働きが異なります。
単剤または、気分安定薬との併用で使用されます。

〈主な作用〉

躁状態、うつ状態の改善あるいは再発予防を目的に用いられます。
抗精神病薬の多くが躁状態に対して有効ですが、うつ状態に有効な薬は多くありません。
抗精神病薬が持つ作用のうち、ドパミンという神経伝達物質に対する作用は全ての薬が 持っています。ほかの神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン、ヒスタミン、アセチルコリンなど)に対する作用は、各々の薬によって異なっており、これらの神経伝達物質への作用の強さによって、作用と副作用に特徴があらわれます。
ご自身が服用している薬の作用、副作用をよく知っておくと良いでしょう。

〈副作用〉

抗精神病薬では、以下のような副作用があらわれることがあります。気になることがあっ た際には、主治医の先生に相談しましょう。

お薬が
作用する
受容体
副作用
ドパミン受容体

体がむずむずして落ち着いてじっとしていられない(アカシジア)、手足が震える・手足の筋肉がこわばる(パーキンソン症状)  など

人物
アドレナリン受容体

めまい、ふらつき、眠気、
だるさ・頭がぼーっとする、血糖上昇  など

人物
ヒスタミン受容体

食欲増加、体重増加、眠気  など

人物
アセチルコリン受容体

かすみ目、口内乾燥、便秘、
頭が働かない  など

人物

徳田久美子:日薬理誌., 128:173, 2006[本論文の著者は、大日本住友製薬株式会社(現:住友ファーマ株式会社)の社員である。]、
田中千賀子:NEW薬理学 改訂第7版, 南江堂, 2017、Bruijnzeel D, et al.:Expert Opin Pharmacother., 16:1559, 2015
より作成

双極性障害の薬物療法について心配な方

Q.
お薬はいつまで飲み続ければよいですか?やめられますか?
A.
双極性障害は再発しやすい病気です。再発を繰り返すと次の再発までの期間が短くなったり、認知機能の低下につながったりします。一方、症状が安定した後も継続的に薬を服用していくことで、再発を予防し、ご自身の望む人生を歩むことにつながります
Q.
うつ状態があるが、抗うつ薬は使わないの?
A.
うつ病の治療で用いられる抗うつ薬は、併存疾患がある場合を除き、原則として双極性障害の治療では用いません。
抗うつ薬の服用によって、躁とうつの間隔が短くなる「急速交代化」を引き起こしたり、双極性障害治療薬に併用することで躁状態(躁転)を引き起こす可能性があることが知られています。
双極性障害と診断されて抗うつ薬を服用している場合、自身の判断で中止はせずに一度主治医の先生に相談してみましょう。

心理・社会的療法

心理・社会的療法では、病気に対する理解を深め対処法を学びます。
心理教育や認知行動療法などがあります。

心理教育

病気や薬剤の性質を理解し、病気と向き合います。再発の予兆を自分自身で把握することも目標となります。

認知行動療法

うつ状態になると陥りやすい考え方のくせを自覚して、客観的な考え方ができるようにします。まず、否定的な考え(マイナス思考)に気づき、少しずつ客観的で合理的な考え方ができるように練習します。

睡眠・生活リズムの安定化

生活リズムの乱れは、症状悪化や再発の原因となることがあります。そのため、睡眠と生活パターンを安定させることが重要です。十分な睡眠をとり、規則正しい生活を送り、再発予防を心がけましょう。

心理・社会的療法

睡眠・生活リズムの安定化

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ワンポイントレクチャー

心理教育や認知行動療法について詳しく知りたい場合は、主治医に相談してみましょう。

嶋田聡志

病気を受け入れていくこと

双極性障害という病気を受け入れ、向き合い、コントロールしようという気持ちになることは、容易ではないかもしれませんが、とても大切なことです。
各病期に合わせた心がけや再発の予兆など、双極性障害と向き合っていくための心構えを確認していきましょう。

女性
病気を受け入れていくこと
  • 病期に応じて気をつけること
  • 再発の予兆を見逃さないように
  • ストレスへの対処法
  • 復職するときの心得
女性

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【監修者】

加藤忠史先生

順天堂大学医学部 精神医学講座 主任教授
加藤 忠史 先生

東京大学医学部を卒業後、滋賀医科大学、東京大学の精神科で診療・研究に従事し、その間、アイオワ大学でも研究に従事しました。理化学研究所で20年間、双極性障害の研究をしていましたが、2020年4月に、順天堂大学精神医学講座という臨床現場に戻りました。双極性障害と共に生きる人たちが、自分らしく人生を送れるようになることを願って、診療、研究に取り組んでいます。